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清水信博

(株)武蔵野TOC研修会の様子


(株)武蔵野TOC研修会 会場:安田生命アカデミア 2003年4月5日                  (株)ソフトパワー研究所 所長 清水信博

●TOC=制約理論の背景 研修参加者は4グループ(要確認)以上の21名。武蔵野の経理部門の顧問である宮川さんがオブザーバーとして参加、ほかに経営サポートパートナー企業である(株)ふたば企画さんの見学がある。

 本日の講師は新潟市に拠点を構えるソフトパワー研究所の所長・清水信博さんだ。 TOCは正式にはティー・オー・シーと読む。 「TOCはセオリー・オブ・コンストレインツ(Theory Of Constraintsc)の頭文字を取ったもので、『制約理論』と訳されています。

 制約はボトルネックのことで、ボトルネックとはコカコーラの瓶でいうときゅっとくびれているところ、いちばん狭くなっているところを指します。  理論とはいっても、内容自体は非常に簡単です。これからゲームをやります。サイコロを振って、出た目の数だけポーカーチップを動かします。チップを動かして、70 枚を目標に出荷していただきます。

 条件を変えた4つのパターンでゲームを行うことによって、TOCのいちばん大切なところがピンときます。理論的なことはあとでお話しします」   どうやら4回のゲームを通じてTOC=制約理論が見えてくるらしい。かろうじてそれだけは理解できる。

 ここで清水さんは、TOCにまつわる背景を紹介する。2001年5月半ば、日本全国の書店に1冊の本が平積みされた。本のタイトルは『ザ・ゴール――企業の究極の目的とは何か』(訳:三本木亮、ダイヤモンド社)。著者はイスラエルの物理学者、エリヤフ・ゴールドラットである。

 経営の悪化から3か月後の閉鎖を通告された機械メーカーを舞台に、工場長のアレックス・ロゴが恩師ジョナのアドバイスと協力を得てさまざまな業務改善に取り組み―― アレックスの離婚の危機などのエピソードも織り込みながら――みごとに黒字に転じさせるという内容だ。

 「いまから20年ほど前、実際にゴールドラットは友人から工場の立て直しを依頼されました。彼は物理学者ですから、ものごとを理論的に考える。なぜ在庫が溜まるのか? 在庫が溜まるには理由がある。なぜ仕事が遅れるのか? それもすべて理由がある。いろいろ調べてみると、従業員がどんなに努力をしても在庫は溜まってしまう。

 みんながどんなに一生懸命頑張ってもリードタイム、納品までのスピードが上がらない。これは人間の努力の問題ではなく、仕組みの問題だということを突き止め、最終的に制約理論に行き着いた。  それを業務改善に適用することで本当に工場を救ったわけです」 ゴールドラットがこの実体験をもとに、自らが打ち立てた生産管理の理論(TOC)を小説というスタイルでわかりやすく展開したのが『ザ・ゴール』なのだ(恩師のジョナは著者自身と目される)。  なお『ザ・ゴール』には続編の『ザ・ゴール2――思考プロセス』『チェンジ・ザ・ルール!』がある。

●続々と成果を挙げているTOC(清水さんのお話) 「新潟県の柏崎市に、主にごみ処理機をつくっているK社という会社があります。金属を切り出し、NC旋盤などを使って加工し、組み立てて納品するといった流れの製造業です。  赤字の続いていたK社で、私が指導をして全社をあげてTOCをやりました。  最初にやらなければならないのは、ボトルネックの位置を捜すことです。みんなで話し合い、意見を集約した結果、どうもNC旋盤のあたりではないかということになった。

 なぜかといえば、いつもその前に仕掛品が溜まっていて、後工程から頻繁に督促が行ってたんですね。じゃあまずその問題を解決しようということになり、改善策が取られたのですが、在庫は減ったものの売上は上がらない。  TOCに理論的なまちがいはありません。しかし、利益が出ないということは、ボトルネックの位置をまちがえてコントロールしていることになる。 もう一度よく検討したところ、ボトルネックは途中のNC旋盤ではなく、第一工程にあることがわかりました。

 第一工程の社員がしょっちゅう欠勤する。だからスピードを上げようとしても無理が生じていたのです。  社長が名乗りをあげて自ら第一工程を担当し、3台の機械をフルに使って後工程に流していきました。すると、みごとに在庫が減って、昨年の11月に赤字会社から黒字会社になり、社長からすぐに喜びの電話がかかってきました。  リードタイムは半分以下に、納期も半分以下になった。利益ががんと出る。しかも残業はありません。

 そうするとどんなことが起こるか? 納期が半分以下になったら、お客様からのクレーム、督促がなくなった。それまではいつ出荷してくれるのかという電話がいつもかかってきたのに、それがなくなった。  リードタームが半分以下になり、より多くを投入できるようになった。1日8時間でやっていたことが4時間でできるから、残りの4時間は特急の仕事、割高の仕事もできる。おそらく今期はかなりの利益が出るだろうといっています。

 さまざまな経験を経て自分たちの会社のどこがポイントかがわかりましたから、あとはそこを強化していけばいい。 実はこのK社では昨年、1,500坪もある工場の敷地を住宅用地にしたいという申し出がありました。そこで、ちょっと離れた250坪の敷地に新しい工場を建てた。

 通常は1,500坪の工場が250坪に入るとは考えられないですよね。ところが、不要な機械を転売して処分したり、レイアウトを工夫することで250坪にすっぽり収まった。  かつては仕掛品がそこら中にゴロゴロしていましたから、その分のスペースが必要でした。しかし現在は各工程には仕掛品がなく、仕掛品置き場がいらない。だから250坪で充分。しかも土地を交換したのでお金も入っています。 そういうことが事実として出ています。

 何も特別なことをやったわけではありません。  TOC 研修でゲームをやり、自分たちの会社を絵に描き、その紙を壁に貼って、社長と社員が話し合いながら業務フローを分析していった。途中、ボトルネックの場所がまちがって苦労はしましたが、それでも取り組みを始めてから3か月後には黒字になったのです。

 私が知っている、いちばん速く利益が出た会社は1週間です。  これは三条市の鋳物会社です。TOC研修をやって1週間で利益が出た。おもしろいのは、何で利益が出たのかわからない。でも、わからなくていいんです。とにかく利益が出て、ひとり最高100時間もあった残業がなくなったんですから。  まず成果を出す。TOCの専門書はいろいろありますから、勉強はあとからすればいい。

 いままでは一生懸命に勉強をしないとなかなか利益が出ませんでしたが、TOCは自動的に利益が出ます。実際に業務をスピードアップし、在庫を半減し、利益を出す。それからゆっくり勉強してください。それがTOCです」

●実際にやってみましょう

 配布されていたレジメの表紙に日付と名前を記入し、いよいよゲームのスタート。  使用するのはポーカーチップとサイコロ、専用のシート(ワークセンター)の3つと、数字を記入する3枚の用紙のみ。あらかじめ参加者は7人ずつ、A、B、Cの3つのチームに分かれて机を囲んでいる。

「TOCはすでに20年の歴史がありますから、製造業だけではなくサービス業、小売業、流通業など応用事例は世界中に山ほどあります。ただ、ものが動いて非常にわかりやすいので、ゲームでは製造業を例にします。7人1チームを製造業のひとつの生産工場と想定し、全7工程を経て製品を出荷していきます」   全員に白チップを4枚ずつ配り、ワークセンター右側の「仕掛品」部分に積む。第一

工程の前に置かれた白チップのケースは、原材料倉庫に該当する。

◆シミュレーション1 ― キャパシティのバランスした工場

「この工場はすべてのワークセンターがサイコロ1個分の同じ生産能力を持っています。1 日あたりの平均生産能力は(サイコロの出目の平均値と同じ)3.5個で、月産生産可能量は 3.5個×20日=70個/月。

 70個は市場の需要個数と同等です。ゼロからのスタートはきついので、初期設定を各ワークセンターに4個ずつの計28個とします。  お客様はいきなり大量の製品を持ってこられても倉庫がパンクしてしまいますから、出荷ペースはTOC集計表にある出荷予定数量(3・4・3・4……)に合わせます。  つまり、初日は3個、2日目は4個、以降はその繰り返しです。

 第7工程の人が出荷としてワークセンターの外に出します。ところが、仕掛品が不足して出荷できない日が出てくる可能性があります。納期割れです。その場合には赤チップを、納期割れした枚数分だけ賽の河原みたいに脇に積んでください(笑)。  お客様との約束を守れる工場かどうか、お客様満足度が高い工場かどうかの指標になりますから、できるだけゼロに近いほうがいい。赤チップの枚数はあとできちんと金額として算出します。  

  赤チップを積まなくてもいい方法もあります。残業です。間に合わないようだったら全員で相談して、残業ができます。  残業は全ワークセンターがいっせいに行い、1時間あたり1個の追加生産が可能です。ただし1日2時間まで、組合協定で月間 10時間までと決まっています。残業1時間につき 1工程50円×7工程=350円かかります。

 残業してもまだ足りないときには、翌日以降に調整して出荷ペースに合わせるようにします(ただし、出荷ペースを超えてはいけない。赤チップは当日であれば残業で取り戻すことができるが、翌日になったら事実として納期割れになる)。  この工場は完全で、従業員数も充分な上に無断欠勤もなし、出荷に関する手続き上・配送上の問題はありません。

 以上のような条件のもと、月に20日(5日×4週)稼動して  ――サイコロを20回振って――どんなことが起きるのか?」 *この工場の経理的な数字は以下のとおり。 P(売上単価):2,000円/個 V(比例原価):1,000円/個 M(売上-比例原価):1,000円/個 Q(売上数量):70個/月 F(固定費):58,000/月 仕掛品在庫保有費用:100円/個 残業費用:350円/1H 清水さんの指導で1回だけ練習。

 全員がいっせいに1個のサイコロを振る。カラコロコロ……。出た目の数だけの白チップを、第1工程の人は倉庫から、第2~第7 工程の人は前工程から取り「本日受入」へ置く。  また、第7工程の人は出荷予定数量を出荷する(もしくは全員と相談して残業をするか赤チップを積むかの手続きを取る)。

 1日ごとの原材料投入(+)、製品出荷(-)、総在庫(=)、出荷累計、残業数は壁や白板に貼ってあるTOC集計表に記入し、5日(1週)ごとに小計を出す。  このあたりの流れはMGの完成投入、記入作業と一緒である。ゲームの進め方、工場の概要については大筋のところでは理解できたが、どんなことが起こるかについては皆目見当もつかない。 「せーの」のかけ声とともにサイコロを振り、各工場の1か月の戦いが始まる。

 MGのようにカードの不確定要素も少なく、意思決定の選択肢も多くない。3チームで行ってはいるが、競い合うわけではない。ライバルもいないし、販売があるわけでもない。

 ゲーム的にはきわめてシンプルである。TOC集計表への記入こそ最初は戸惑ったものの、基本は足し算・引き算だから、慣れてしまえばお手のもの。  ただ見ているだけでは何なので、B班では内山さんが記入を担当している。20日間の業務は、全チームが20分あまりで終了。すぐさま決算の作業に入る。筆者にとってはここからがややこしい。  Q(売上数量)、PQ(売上高)、VQ(仕入)、MQ(粗利総額)、F(固定費)、 G(粗利総額)、損益分岐点(F/MQ×100)を算出し、レジメの「損益計算書実績(月間)」の欄に書き入れていく。  また、計算式に従って製造原価(FC)、DMQ()、 DVQ()を導き、これらすべての数字をMG用のMQ会計表に記入する。  このあたり、MGの戦略MQ会計の要素を加味しているのが清水さんのTOC研修のオリジナルである。

 ほかではほとんど例がないそうで、MGを知っている人には親しみやすく、また初心者にとっても本で学ぶより格段に身につくものとなっているそうだ。

●シュミレーション1のまとめ

 MQ会計表への記入後、清水さんによるシュミレーション1のまとめが行われる。「この工場はちょうど戦後間もない町工場のようなもので、生産性がまだまだ低いケースです。ひとつ興味深いのは、全員が同じ能力を持っているにもかかわらず、アンバランスになってしまうことです。

 企業、特に製造業はバランスを保つために設備投資をしたり、人員を適切に配置したりといろいろなことをする。しかし、たとえば停電したり、機械が故障したり、従業員が風邪で休んだりと、どうしてもいろいろなリスクがついてまわる。  サイコロの目が1しか出ないと、1個しか動かせない。電池でいうところの直列でつながっている仕事の場合、リスクによる不具合が生じると、それを長いあいだ引きずってしまう。 よって、そうそうバランスは取れない。

 現実にみなさんの仕事を考えてみると、人でも、ものの配置でも、一生懸命バランスを取ろうとする。だけど、何年やってもバランスが取れない。  バランスが取れないばかりか途中で過剰人員、過剰投資になったりして利益率が下がったりする。これがいま、ある意味では投資しても効かないという日本経済の現状でもあるのです」 最初のゲームは、生産性が低い、戦後間もない町工場のシミュレーションであった。

 諸条件を一見したところでは何も問題はないと思っていたのだが、考えが甘かったようだ。  リスクという概念がなかったのだからどうしようもない。  たとえばゲーム上で、どこかの工程の人が連続で1を3回出したとする(実際にこういったシーンは見受けられた)。そうすると、前工程からわずかに 3個しか持ってこられない。前工程では仕掛品が増える一方で、数日もすれば第7工程では出荷もままならなくなってしまう。  そして、この状況を後々にまでずるずると引きずることになり、バランスを立て直すのは難しい。

 確かにこの日のも、3チームともに予定の70 個を出荷すことはできなかった。「なるほど」とちょっとだけ納得した筆者。だが、TOC の醍醐味としてはこれはまだまだ序の口である。

●いざ、TOCの核心へ迫る

 工場概要の説明、ゲーム、決算、まとめという同じ流れで  ―途中に昼食をはさみながら ― 計4回のゲームが行われる。

◆シミュレーション2――キャパシティのバランスしていない工場

*工場概要  市場の需要に応えられないことがわかった工場長は、設備投資をして何とか70個を出荷できる態勢にすることを決断。各ワークセンターの生産能力を上げるべく、サイコロの数を2個に増やす。  ただし、第5工程の設備は高価であるため社長から購入は認められなかったので、生産能力はサイコロ1個のまま(第5工程の前には「制約資源」のカードが置かれる)。  その他の条件はシミュレーション1と同じだが、設備の購入費用(1,000円×6台=6,000)がかかったため、F(固定費)が62,000円/月になる。  なお、シミュレーション2からはリードタイム(原材料投入から出荷までに何日かかるか)を計算する。  9日目に第1工程の人が青チップを投入し、第7工程に最初の1枚が入るまでの日数がリードタイムとなる。

*まとめ

 どんどんつくって出荷していく、高度成長期の工場のシミュレーション。  設備投資をして70個出荷できる態勢になったが、赤字に転じた。Bチームの場合、シミュレーション1で1,900円だったG(粗利総額)が ▲5,350円に。 *キーワード: 製造原価、キャッシュフロー、黒字倒産、バランスシート

◆シミュレーション3 ― DBR(ドラム・バッファ・ロープ)工場

「過去2回のゲームはそれぞれ戦後間もない町工場と高度成長期の工場をシミュレーションしただけで、はっきりいうとTOCでも何でもありません。  いま、日本の企業はみんな苦しんでいます。設備投資をしたのに利益が出ない。いろいろ考えて原価低減運動をやってみても効果はない。いってみれば高度成長期の工場からいまだに脱皮できずにいる。  この同じ状況で利益を出して、在庫が絶対に溜まらないようにする。これがTOCの最初の段階で、3番目のゲームです」

*工場概要  TOC/DBRを学び、理論の素晴らしさに共感を覚えた工場長はこれを導入することにした。シミュレーション2との変更点は以下のとおり。残業は各ワークセンターごとに意思決定して行う。  各ワークセンターあたり1時間1個の追加生産が可能で、1個あたり50円の残業費用がかかる。1日の残業時間は4時間まで。  第1工程の人はサイコロを振らず、制約資源(サイコロ1個)である第5工程の出目に合わせて投入する。なお、第5工程が残業する場合には第1工程でも同等の残業をする。

*まとめ 「結論をいえば、制約資源である第5工程がこの工場のボトルネックになっているということです。  要は第5工程の能力によって会社のMQ(粗利総額)が決定する。  第5工程が毎回6を出して100%の仕事をすれば、工場はもっと楽になり、スピードアップもできる。それ以外の工程がいくら頑張っても意味はないのです。  製造業ではよくあることですが、ヒマにしていると上司が叱るんですね。怒られちゃたまらん、もしかしたら半年先に注文が来るかもしれない、いまのうちにやっておこうと、注文もないのに仕事をする。とりあえず忙しそうにしていればほめられるわけです。

 また、稼動率を上げたいので、仕事を小分けにしたくない。機械を一度セッティングしたら、できるだけ長い時間で動いているほうが稼動率がいいから、別の仕事が入ってきて段取りが変わることをいやがる。  別の仕事のほうが儲かるかもしれないのに、稼動率という妄想にとらわれて延々と機械を動かす。つまるところロットの多い仕事を好むようになる。  ところがロットの多い仕事はおおむね単価が安い。MGでいうと20円の市場にばかすか販売しているようなもので、思ったほど儲からない。  稼動率優先とか原価でものを考えるようになっていて、それが実は『方針制約』になっている。

 物理的な制約は確かにありますが、もっと大きいのは方針による制約です。 特に製造業では経費削減がいわれます。経費削減が行き詰まると、今度は原価低減をする。一生懸命に原価を下げれば下げるほどものをつくるようになる。  結果として、シミュレーション2のように工場内にものが溢れてしまう。原価は下がります、しかし利益は出ません。それをあたかも相関関係があるかのように思い込んでいることも方針制約です。

 過去からの慣習で仕事をしてきて、いままではそれでよかったかもしれない。でも、世の中が変わってお客様も変わってきたら自分たちも変わらなくてはいけない。それなのに頭のなかがガチガチに凝り固まって、なかなか変えられない。  それが制約になる。悪いものには従う必要はないし、取り払えばいい。みんながもっと成果を挙げられるのに、それを疎外している方針は取り払えばいい。

 よくよく考えてみると、そういった例はものすごくいっぱいあります。みんなが頑張ったら利益が出る―嘘ですよね。  みんなが頑張ったらその分だけ在庫が増えるんですから。頑張るところは頑張らなければいけないし、仕事が大変なところがあればほかの人が手伝いにいけばいい。もしくは、大変なところがストップしないように機械のメンテナンスをしたり、担当者が休んでも替われるようにスキルを磨いてもいい。 それこそが全員経営です。

 みんながみんな闇雲に頑張ることを全員経営とはいいません。 制約は言葉ではネガティブなイメージですが、実はここがスターであり、いちばん大事な部分なんですね。  ですが、会社では案外ボトルネックにどうでもいい人を配置しがちです。そして、どうでもいいような人は開き直って一生懸命仕事をしないから、自ずと会社の業績は落ちる。反対に、ボトルネックにいちばん有能で給料が高い人をつけるのが正解です。   実際の経営ではまず制約資源、ボトルネックがどこであるのかを見つけなければならない。

 それからボトルネックを広げる、能力をアップさせる。能力をアップさせるために考えられることはいくらでもある。とにかくボトルネックのボリュームを広げる。広げてからほかの部分を同期させるのが順番です。   この不況下にあって売上を上げるにはどうしたらいいか? ボトルネックが目詰まりしている状態で上からどんなに受注してもダメです。

 経営者は心配だから受注を増やすためにいろいろな手を打つ。受注を増やせば増やすほど納期遅れが出てキャッシュフローが悪くなる。会社の構造を直さないうちに受注を増やしたら、かえって致命的な症状になる。  まず最初に会社の健康診断をして、血液の流れをスムーズにしてから受注を受ける。それが正しい企業の改善の仕方です」

*キーワード:DBR(ドラム・バッファ・ロープ)、    制約の3種類(物理的制約、方針制約、市場制約)

◆シミュレーション4――DBR工場リードタイム編

*工場概要  シミュレーション3との変更点は以下のとおり。DBRの実践に自信を持った工場長は、リードタイムを7日にすると宣言。納期短縮により納入金額のアップにこぎつける。・・・(紙面の都合で割愛します)

●本当はここからが本番 さまざまな気づき、発見を繰り返しながら4回のゲームは終了。  その後、これまでの理解度をチェックするクイズに3問ほど取り組み、答え合わせをする。

 休憩後には清水さんから再び実例が紹介される。新潟県のH社は、4,000あまりの学校の卒業アルバムをメインに印刷・製本を手がける会社である。商品が卒業アルバムという季節ものであるために仕事量の変動が大きく、12月から激増して3月にピークを迎える。  しかも年々、入稿が遅れるようになり、残業残業の毎日でにっちもさっちもいかない状況に陥った。  そこで事務管理の女性と男性営業マンが中心となって2001年の10月にTOCをスタート。  年明けの2002 年2月、超多忙期にもかかわらず7時に帰宅できるようになり、同年10月には全社で導入。 翌年の2月でも7時帰宅が続いているという。結果としてH社のリードタイムは10分の1に短縮されたという。

  さて、TOC研修は本当はここからが本番である。 MGが現実現場へのフィードバックに重きを置いているように、TOCも自分たちの職場で実践して初めて意味をなすものだ。  清水さんの「業務フロー図の基本フォーマット」、H社の「本社営業原稿フローチャート図 第3版」、某企業の「不在を考慮した上でのお助けライン」などの資料を参考に、各事業部が「業務フロー図」を作成し、ボトルネックはどこかを探る作業に入る。  参加者は額を寄せ合って話し合いながら、真剣に作成作業を続ける。   業務フロー図作成のポイントは、 ・文字だけではなくビジュアルでシンプルに図示する・自分の仕事を理解する・最初から完成品をつくるのではなく、時間をかけて改訂版をつくっていく・できたものは必ず職場に貼っておく・全員が参加する ことなど。  業務フロー図には必ず名前と何月日を入れ、新しくなっても絶対に捨ててはいけない。

 叩き台となる第1版をつくることがすべての出発点になるのだが、実際にはここで挫折してしまう人が多いという。  最後に清水さんはこう締めくくった。 「自分たちの仕事のなかでボトルネックを捜し、活性化させ、同期化することで成果が挙がるようになります。全員の目を利益に向けること、お客様に向けることが重要です。  また、自分たちの部署だけではなく、前後の部署同士で話し合うことも大切です。全社がよくなるんだという意識を持って、ぜひチャレンジしてください」

●3つの制約で物事を見る

 前記したように、制約には物理的制約、方針制約、市場制約の3つがある。  TOCで調べたところによれば、全体に占める割合では物理的制約が5%、市場制約がわずかに2%で、残りの93%が方針制約であるという。  以上の数字が示しているように、人間はいざ方針を変えようとしても、それがなかなかできない生き物のようだ。

 いかに過去の、しかもまちがった慣習に縛られているかがわかる。「改革なくして成長なし」というキャッチフレーズだけは立派だが、方針制約を少しも打破できずにいる某国首相の顔が思い浮かぶ。

 筆者の住んでいる杉並区では、以前からスーパーやコンビニのレジ袋に課税することが検討されているが―― ごみ問題を考える上で大きなきっかけになるはずなのに――やりもしないうちから「うまくいきっこない」と反対する人たちがいる。

 それとは対照的に―― TOCの考え方に照らし合わせてみても――何ごとにおいても変化のスピードを追求し、そして「とりあえずやってみる、やってみてダメだったらやり方を変える、結果が出なかったらすぐにやめる」というフレキシブルな武蔵野の姿勢はかなりの説得力を持っている。

TOCの考え方、特に制約については仕事だけではなく、社会のあらゆるものに対して応用できそうなところがおもしろく、興味深い―― 今回の研修を見て筆者はそんな感想を抱いた次第である。   いうまでもなく、TOCはゲームを通じてさまざまな気づきを獲得し、それを実際の仕事に反映させるものである。  机上の論理であれば、清水さんのいうようなたくさんの成功事例は生まれてこなかったはずだ。ぜひ、ご自身の目で見て、体験されてみてはいかがだろうか。 ------------------------------------------------------------


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